研究道具箱 カードと研究

健康

粘度測定

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研究概要

SAKAI Keiji

東京大学 生産技術研究所

酒井 啓司

SAKAI Keiji

専門分野:ナノレオロジー工学

研究室WEB

液体や気体の流れやすさを、精密に測定

どんな技術?

粘度とは、ものの「流れやすさ」を表わす値です。例えば、ドロドロ・サラサラの血液といった表現を耳にしますが、血液の粘度には個人差があります。平均的な成人男性の血液の粘度は、水を1とするとおよそ4.3。血液中の赤血球どうしの摩擦や赤血球の変形でエネルギーが失われるため、血液を流すには水よりも大きなエネルギーが必要です。

 

粘度測定は難しく、装置が発明されたのは20世紀に入ってから。現在の粘度計は、容器に液体を入れ、円盤のついた軸を回転させてかき混ぜ、回転に必要な力から粘性を導き出す仕組みが主流です。しかし、この仕組みでは、計測のたびに、円盤と軸を洗浄しなければなりません。対象が血液の場合には、その洗浄液は「医療廃棄物」となり、処分にコストがかかります。

 

もう1つの問題は機械の摩擦です。粘度計は非常に微小な力を計るので、軸まわりで起こる摩擦すらも測定誤差の原因になるのです。空気圧などを利用して摩擦を減らす精巧な粘度計もありますが、数千万円もします。

 

そこで、液体をかきまぜる構造を本体から切り離した、電磁誘導型粘度計を開発しました。原材料費はわずか100~200万円。アルミなど安い金属でできた筒あるいは円盤(回転子)を遠隔操作を使い液体中で回転させ、その回転をカメラで読み取って粘度を測定します。測定後は回転子や容器を滅菌処理して捨てるだけ。本体を洗浄する必要がありません。また、容器中に液体を密封できるため、高圧や高温、真空など、粘度を測定できる状況が大きく広がりました。

これからどうなる?

測定だけでなく粘度の制御もできるようになれば、幅広く工業応用されていくでしょう。身近なところでは、医療への応用が広がりそうです。血液の粘性を自宅などで手軽に測定できるようになれば、脳梗塞の予防に役立つでしょう。輸血用の人工血液の性能を上げられるかもしれません。私たちの血液は、太い血管では赤血球が積み重なって体積を減らし、粘性を下げてさらさら流れる一方、毛細血管では赤血球が変形し、粘性は高いもののすみずみまで到達するという、とても面白い特性を持っています。環境によって粘度を変える人工血液が、そのうち生まれるでしょう。さらに、赤血球のようにふるまう人工構造物に薬を詰めて患部に届ける、「ドラッグデリバリー」技術の開発も始まっています。血液の粘性に影響を与えなければ、副作用も抑えられるはずです。

 

精度もますます上がっていくでしょう。現在、真空に近い状態にある「気体」の粘度も計れるようになっています。私たちの装置では水の10万分の1という小さな粘度まで測定できます。最終的に、粘度の「量子標準」作りをめざしています。キログラム原器が2019年に廃止されたように、最近はあらゆる単位が原器を使わずに量子力学(小さな世界の物理現象を記述する学問)の原理を利用した定義に替わっています。しかし、粘度の定義は今でも米国にあるガラス管のまま。世界初の粘度の量子標準をめざして、研究を重ねています。

他のカードとの相性は?

例えば…

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流路が詰まらずスムーズに反応が進むよう、反応液の粘度を調整。

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粘度の理論を応用して、車の「流れやすさ」を改善。

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枠のすみずみまで生コンクリートが均一に充填されるよう、粘度を調整。

新しい粘度測定システム。粘度を測りたい液体に回転子を浸し、遠隔操作で回転子を回し、その速度をカメラで読み取り、粘度を算出する。