研究道具箱 カードと研究
研究概要
痛くない針で健康を守る
どんな技術?
蚊のストロー状の口より小さく、先端が直径50マイクロメートル(マイクロは100万分の1)ほどで、肌に刺しても痛くない「マイクロニードル」(微細な針)を開発しています。金属製ではなく、高分子(1,000個以上の原子がつながった化合物)を、金型や3Dプリンターで成型して作ります。とても小さいので、粘っこい高分子の液体が金型の先端まで行き届かなかったり、金型から外す際に壊れたりと、開発当初は課題が山積みでしたが、工夫を重ね、均一な構造を作れるようになりました。
たくさんのマイクロニードルをパッチ上に並べ、絆創膏のように肌に貼ることで、体内に物質を届けたり、逆に、表皮の細胞の間をみたす「細胞間質液」と呼ばれる液体を採取したりすることができます。
すでに、マイクロニードルでヒアルロン酸などの美容成分を表皮に届けるアンチエイジング商品は、製品化されています。薬局などで目にしたことがある方もいるかもしれません。現在は、薬やワクチンを体内に届けることを目指しています。体内で自然に溶ける成分で針を作り、薬の成分を練りこんだり、表面をコーティングしたりする技術を開発してきました。針自体が溶けるので、折れてしまっても安全です。
採血せずに、糖尿病の検査や、新型コロナ感染症などの抗原・抗体検査ができる技術の開発も進んでいます。スポンジのようにたくさんの穴が空いた針を作り、毛細管力(細かい管や穴の中で表面張力によって流体を動かす力)で、間質液を採取します。間質液は、パッチにつながれた基板へと移動し、そこでセンサーとして活躍する金ナノ粒子や蛍光分子と反応します。センサーの開発も並行して進めることで、高い精度で対象を検出できるようになりました。
将来はどうなる?
感染症などのワクチンを、世界中に届けたいと思っています。現在使用されているワクチンは溶液に溶けており、効能を維持して届けるにはコールドチェーン(冷蔵・冷凍で流通させる方法)が欠かせません。しかし、ワクチンをマイクロニードルに練りこんで乾燥できれば、常温で運ぶことができます。コールドチェーンが発達していない国々にも、広く届けられるようになるのです。さらに、マイクロニードルのパッチは、医療従事者でなくても扱うことができるため、病院が近くになくても自宅でワクチンを接種できるようになるかもしれません。
今後、活用が最も期待されているのは、予防医学の分野です。たとえば、世界の成人の約1割がかかる糖尿病は、2045年までに7億8,300万人に増えると予測されています。いわゆる「糖尿病予備軍」は、継続的に血糖値をモニタリングし、生活習慣を改善する必要があります。マイクロニードルの糖尿病検査パッチを常に貼っておけば、血糖値を簡単に、安価に、そして継続的に測定できるようになるでしょう。