研究道具箱 カードと研究
研究概要
光の伝わる速さや向きを操る
どんな技術?
フォトニック結晶は、数百ナノメートル(1ナノメートルは1mmの100万分の1)単位の細かな周期構造を持つ人工の光学材料です。この構造を利用して、光を思いのままに制御する技術を確立しようとしています。
光は、電磁波という波の一種で、波長の異なるさまざまな波を含んでいます。光が物体に当たると、一部は吸収され、一部は散乱、反射します。また、光を目(レンズ)やプリズムで捉えると、波長ごとに異なる屈折率を感じるために分散します。私たちはそれを色として認識します。この光の反射や屈折の起こり方など、光の進み方をコントロールして、さまざまな現象を引き出すのがフォトニック結晶です。
自然界にある結晶が持つ周期構造は、0.1ナノメートルほどとごく小さいため、光は吸収・散乱して高速で飛び去ってしまいます。しかし、光の波長と同サイズの周期構造を持つフォトニクス結晶は、光のふるまいに干渉することができます。例えば、規則的にくり返す構造の中に、わざと規則性の乱れた場所を組み込むことで、その小さな領域に光を閉じ込めることができます。
さらに近年では、トポロジカルフォトニクスと呼ばれる技術にも注目が集まっています。台風の渦は、北半球と南半球で逆の回転を形成しますが、赤道付近では一方向に直進する気流が生み出されることが知られています。例えばこの現象と似たことが、フォトニクス結晶を用いた光の制御で実現できます。トポロジーの異なる光の渦を作り出し、衝突させることで、一方向に光を導くことができ、光導波路やレーザ、光センサなど、さまざまなデバイスへ応用の可能性が拡がっています。
将来はどうなる?
大量な情報を高速で伝える手段の1つが光通信です。ごく小さな空間に光を閉じ込め、直進しやすい光を思いどおりの方向に無駄なく伝送する技術ができれば、現在は電気で行わるコンピュータ内部の情報通信も、光に置き換えることができると期待されています。また、こうしたデバイスの小型化にもフォトニクス結晶が貢献すると期待されています。
フォトニクス結晶の構造デザイン(設計)をさまざまに変えることで、光に及ぼす作用にも多様性が生まれます。どのようなフォトニクス結晶が、どのような性質を持ち、働くのかを検証する中で、これまでにない光制御技術が生み出されるかもしれません。