研究道具箱 カードと研究
研究概要
通信をより高速に、省エネに
どんな技術?
高速無線通信規格「5G」が2020年から日本でも提供され、多くのスマートフォンが5G対応になっています。「G」は世代(Generation)を表し、これまで1つ世代が進むたびに通信速度が約100倍に上がってきました。例えば、4Gから5Gに移行することで、より多くのデータをほぼリアルタイムで伝えるネットワークが実現し、あらゆるモノがネットワークにつながってお互いに制御しあう「IoT」社会が現実味を帯びてきました。
研究者や産業界は、その先の6Gや7Gへ向けて技術開発に取り組んでいます。今の課題は、さらに大規模なデータを高速でやりとりするために、有限の電波周波数帯をいかに利用していくかです。無線通信に適した6ギガヘルツ以下の周波数帯はすでに使いつくされており、この周波数帯の利用効率を増やすか、無線通信には不向きな高い周波数帯をなんとか活用する必要があります。
そのため、1つの周波数帯で送信するデータをできるだけ増やしたいのですが、多過ぎると信号が混ざり合い、受信側で「情報のからまり」をほぐす必要があります。これには相当のエネルギーが必要で、私たちのスマートフォンのバッテリーがあっという間に切れることになりかねません。そこで、送信側で信号の波を高くしたり、低くしたり加工し、混ざった信号を少ないエネルギーで分別できるしくみを開発しています。
一方、無線通信にまったく向いていないと考えられてきたミリ波(数十ギガヘルツ)を、なんとか使う方法も検討しています。ミリ波の欠点は、障害物を超えられず、長い距離も届かないこと。これを克服するアイデアの1例として、送受信方法ではなく「電波環境を変える」というコンセプトが注目されています。電波を入ってきた方向とは異なった角度に反射できる「メタサーフェス」を使い、電波の進路をコントロールして障害物を超えさせる理論を研究しています。
将来はどうなる?
20年後は自動運転車がまちを走り回っているかもしれません。より高度な自動運転実現のためには、自動車が通信でネットワークにつながり、運転に必要な情報をリアルタイムでやり取りすることが重要です。例えば、通信が少しでも遅れると、重大な事故につながりかねません。6G,7Gの技術が自動運転車の未来を支えるはずです。また、無線技術によって工場の自動化も大きく進むでしょう。情報伝送の遅れを短くできれば、機械が暴走する危険性も回避できます。
大規模なデータが高速で行きかう未来を見据え、通信のセキュリティ技術の刷新も考えています。現在、物質を構成する原子や電子などの「量子」が持つ性質を利用した、「量子コンピュータ」の研究が盛んに行われています。これが普及すれば、従来の暗号が読み解かれうると予想されています。そこで、暗号を用いずに通信の秘密を守るしくみを作っています。例えば、1970年代に米国の研究者が打ち出した、盗聴を防ぐ理論「物理レイヤセキュリティ」を利用したセキュリティシステムが生まれれば、盗聴を心配せずに安心して通信の恩恵を受けられる社会がやってくるでしょう。
他のカードとの相性は?
例えば…
無線ネットワーク環境を向上させるインテリジェントな反射面
出展:S. Sugiura, Y. Kawai, T. Matsui, T. Lee, and H. Iizuka, "Joint beam and polarization forming of intelligent reflecting surfaces for wireless communications," IEEE Transactions on Vehicular Technology, vol. 70, no. 2, pp. 1648-1657, Feb. 2021.