研究道具箱 カードと研究
研究概要
狙った分子を見つける、操る
どんな技術?
光は電磁波の一種です。電磁波にはさまざまな「波長」(山→谷→山→谷と波の曲線を描いた時に、山から山までの長さを指す)があり、波長の長い領域から、電波、光(赤外線、可視光線、紫外線)、X線、ガンマ線と分類します。
超短パルスレーザーは、10兆分の1秒程度という、極めて短い時間幅を持つ光(パルス)を周期的に出す装置です。どの波長のパルスを作るかは、目的によって変わります。可視光や紫外線でも研究されていますが、私たちは赤外線領域の光を重ね合わせた、「赤外超短パルスレーザー」を開発しています。人間の目や、可視光を使った顕微鏡では捉えることのできない、ミクロな分子の構造を見ることができるからです。
仕組みはこうです。まず、レーザーの中心にある結晶にエネルギーを蓄えます。すると、結晶が固有の波長の光を四方八方に出すので、向かい合わせの鏡でうまく繰り返し反射させることで、一部の光を選択的に増幅させます。最後に、バラバラだった波の山・谷をあわせて光を重ねることで、パルス光を生みだすのです。
分子の構造を見るだけでなく、操ることもめざしています。化学反応は、究極的には原子間の結合と切断です。加熱では、分子全体が等しくエネルギーを受けるため、切断したい結合がもっとも弱い場合や、たまたまうまく切断された分子を選別できる場合しか、目的の反応物を得られません。しかし、赤外超短パルスレーザーを使えば、狙った結合部分のみを振動させ、効率よく目的の化学反応を起こすことができるのではと考えています。これは今のナノテクノロジーをもってしても達成できていない課題であり、作れる化合物のバリエーションが一気に広がる可能性が期待されています。
レーザーの起動に膨大なエネルギーを使う点や、光路の調整が精密なために大量生産が難しい点など、今ある課題を1つ1つ解決して進めています。
将来はどうなる?
対象に触らずに、遠くからレーザーを照射するだけで、そこにある分子の種類を見分けることができるようになるでしょう。例えば、シックハウス症候群を引き起こすホルムアルデヒドなどの分子や、室内のウイルスの濃度を、簡単に測定できるようになるかもしれません。
これまで作れなかった化合物を作れるようになり、薬品の開発も進むでしょう。また、二酸化炭素にレーザーを当ててもう1回燃料に戻すなど、二酸化炭素のリサイクルが低コスト・低エネルギーでできるようになり、環境問題の解決に貢献できるかもしれません。