研究道具箱 カードと研究
研究概要
燃料タンクを軽くし、究極のエコカーの普及に貢献
どんな技術?
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、鉄よりも強く軽い「炭素繊維」をプラスチックで固めて成形した材料です。すでに航空機の機体や自動車の車体に使われている「軽くて丈夫な」材料です。
近年、このCFRPを使って、「燃料電池自動車(FCV)」用の軽くて丈夫な高圧水素タンクを作り、FCVの普及に貢献しようとする研究が進んでいます。水素で発電し、モーターで駆動するFCVは、二酸化炭素を排出しない「究極のエコカー」とも言われています。しかし、2年に1度の車検だけで、どんな状況下でも15年以上水素ガスを漏らすことなく走行できるという安全性を確保するには、CFRPを必要以上に使わざるを得ず、重くコストも高くなり、普及の妨げになっています。
タンクが壊れる詳細な過程さえ分かれば、壊れやすい部分にCFRPを厚く巻いたり、異なる材料で強化したりして安全性を高めながら、壊れにくい部分のCFRPを薄くして軽量化できるかもしれません。そこで、シミュレーション(現実に実験を行うことが難しい物事について、想定する場面を再現し分析する手法)を使い、タンクがどこから、どのように壊れるのかを調べています。また、これまで経験則に頼ってきたタンクの設計に機械学習の利用も進んでいます。タンクは車種ごとに異なる形をしており、炭素繊維を2万本程度束ねた、幅1センチのCFRPのテープを角度や引っ張る力を変えながらぐるぐると30層ほど巻き付けて作ります。従来は、作って壊して弱点を補強して、を繰り返し、エンジニアの経験に基づいた設計が行われてきました。一方、機械学習は、数十万ケースの設計候補を解析し、その中から最適なCFRPの巻き方を提案することができます。
将来、どうなる?
プラスチックを工夫することでCFRPの性能がさらに上がるでしょう。プラスチックにカーボンナノチューブを混ぜたりして、強度を高める研究が進んでいます。また、CFRPをロケット用の液化水素や液化酸素用のタンクに使用する研究も進められています。低温液体燃料用とするためには、特にプラスチックの性能が重要です。
高圧水素タンクを搭載したFCVが普及すると、日本が宣言した2050年のカーボンニュートラルの達成に貢献できます。普及には、水素の低コスト化が大前提です。水素は私達の周りにほぼ無尽蔵に存在しますが、取り出すには大きなエネルギーが必要です。再生可能エネルギーを利用して水から水素を取り出したり、安価な質の悪い石炭から水素を取り出し、液化して運送したりする試みもなされています。水素がガソリンより安く、環境負荷の少ないエネルギー源になれば、水素を補給する「水素ステーション」も増え、FCVはより便利な交通手段となるでしょう。