研究道具箱 カードと研究
研究概要
その場その場で電気をまかなう
どんな技術?
温度差発電とは、熱エネルギーを電気エネルギーに変える技術です。ある材料の一部を温めると、温かい方から冷たい方に電気が流れます。それを取り出して電力を生み出します。
研究者が注目したのは、温度1℃の差で何ボルトの電圧が生まれるか、という効率性です。効率を高めようと、さまざまな素材が試されてきました。その結果、ビスマスとテルルという元素の化合物が今では最もよく使われています。
一方、1990年代以降、ナノ構造を作って効率を高める研究が大きく進みました。材料の内部に特殊なナノ構造を作り、電気を運ぶ「電子」の動きは邪魔せず、熱を運ぶ「フォノン」の動きだけ邪魔する構造の開発に挑んでいます。これなら温度差を保ったまま、長期にわたって電気を取り出せます。
特殊なナノ構造は10ナノメートル~100ナノメートルのサイズです。極小の穴が整列している構造など、理論的にデザインを考案し、本来は熱も電子もよく通すシリコン上に実際にその構造を作り、発電効率を調べてきました。世の中に普及できるよう、ハンコのようにナノ構造を一瞬でプリントする量産方法も開発済みです。研究開発は実用化一歩手前まで来ています。
将来はどうなる?
再生可能エネルギーの中で、太陽光発電は木で言えば幹にあたる大きなエネルギーです。しかし、常に大きなエネルギーが求められるわけではなく、必要な場所で必要な分だけ発電できれば十分です。
例えば、山奥の送電設備やトンネル内など、日が当たらない、密閉されている、といった場所での定期点検には、太陽光発電は不向きで、温度差発電が貢献できます。構造物の内外に生じる温度差から電気を作り、充電池にためます。ヒビ割れや腐食が進んでいないか、画像を撮影してデータを無線送信し、人工知能(AI)で解析して補修の必要性を判断します。将来こんなシステムを構築できれば、現場まで調査しにいく人手がなくても、安全を保つことができます。
他にも小さな温度差が生まれている場所はたくさんあります。体温で発電してヘルスケアに使ったり、窓際やドアなどで室内外の温度差を利用してセキュリティチェックをしたり、河川中の温度差を活用して工場排水を検査したり、応用先の可能性は広がるばかり。無線送電の技術も向上すれば、電力が地産地消され、送電線や電柱が消える日がやってくるかもしれません。