研究道具箱 カードと研究
研究概要
たたずまいを重視して、美しい都市空間を作り出す
どんな技術?
都市空間は、個々の価値観を持った建物の集合体ですが、その建物と建物、建物と自然との境界領域である「中間領域」という空間をいかに設計していくか、美しい街作りをする上でとても重要です。われわれは、パブリック・スペースともいうべき、中間領域に着目し、最適な美しい都市空間のあり方を探っています。
日本の街作りは、大勢の人を集める「にぎわい」つくりに重点が置かれていました。人間は限られているので、大勢集まるところもあれば、ほとんど集まらないところがでてきます。言うなれば、奪い合いだったのです。新型コロナウイルスの感染拡大で、にぎわいがなくなった時、街の形が見えてきます。時には、なんてヘンテコな街に住んでいたのかと気づくことになります。都市の暮らしは文化のレベルや、価値観が具現化されるものです。それには、地域性のある中間領域をどう作っていくべきか、住民が話し合い、合意を形成して、共有していくプロセスが大事になってきます。
近代建築は、ガラス張りの視覚中心の具現化で、いわば外見重視です。しかし、美しい街並みには個性的で「気配」があります。中間領域をうまく活用して、目に見えるものを超えた、雰囲気、たたずまい、趣のようなものが醸しだされているということです。
中間領域の活用は、街の個性につながります。たとえば、富山の常願寺川周辺は洪水に備え、各戸に高さ50センチほどの石垣が作られ、美しい街並みに一役買っています。
将来はどうなる?
中間領域、パブリック・スペースをどう構築していくかは、和歌山市加太など各地の街作りにも関わっています。例えば福井県に、観光名所の東尋坊があります。数年後に北陸新幹線が福井まで延伸する予定ですが、地元では東尋坊に立ち寄らないで素通りしてしまう観光客が多くなるのでは、という危機感があります。そこで、東尋坊周辺のバラバラにある駐車場を、森の中にひとまとめにして、そこからバスなどでピストン輸送しようとか、夕日が見られる広場をつくるとか、中間領域の再構築の計画が進められています。
中間領域の設計では、自分のものであるけど、皆のものであるという認識が不可欠です。専門家が作っていくというより、街の人たちが当事者となり、自ら作っていくという意識改革が求められています。街作りにあっては、これまでは技術を提供する側のロジックが重視されましたが、今後の街作りは、画一的なものではなく、風土にあった、時には地元の属人的な発想が生かされるような仕組みができていくでしょう。