研究道具箱 カードと研究
研究概要
家づくりの力を私たちの手に取り戻す
どんな技術?
専門家に頼らず、自分の手で建てられる住宅、それが「セルフビルド住宅」です。敷地や家族構成の変化に応じて建物の大きさや形をいつでも変えられ、気軽に別の場所へ移動することもできます。
2050年には、世界人口の7割ほどが都市部に住むようになると言われています。かつて、人々は集落単位で助け合って家を作り、修復を繰り返して暮らしていました。しかし、都市化により建築は産業化され、専門家や建築会社が作った住宅で暮らすようになりました。高額な人件費や管理費のために、家の価格は材料費の3倍以上に跳ね上がり、そうやすやすと買い換えられず、人々は住宅に縛りつけられるようになってしまいました。
家づくりの力を私たちの手に取り戻そうと、「PENTA」と名付けたセルフビルド住宅を開発しています。重要視したのは「秩序と自由」。材料費を下げるには規格を揃える必要がありますが、すべてを揃えてしまうと、面白味がありません。どこを共通にし、どこを自由にすることで、複雑で豊かな建築物を作れるかを追求した結果、建物の立体を構成する辺となるパイプを同じ長さに、立体の面となるパネルをすべて正三角形に揃え、パイプを差し込んで頂点となるジョイントだけを、3Dプリンタで自由な形に作ることにしました。
空間は、正3角形4枚でつくる4面体、正3角形4枚と正方形の底面でつくる5面体、正3角形5枚と正5角形の底面でつくる6面体を、何個か組み合わせて作ります。ジョイントの角度を自由にしたときに、4面体は変形しない安定した形ですが、5面体、6面体は底面が変形できます。このため、それらを組み合わせた時に、パイプの差し込み口の向きや数を変えることで、建物の全体として、多くの柔らかい形のバリエーションを生み出せます。パイプもジョイントも、加工しやく、安価で軽量なアルミ製としました。おかげで、重機がなくても脚立さえあれば、組み立てられます。
将来はどうなる?
家も含め、さまざまなものづくりが、専門家の手から私たちの手に戻ってくるかもしれません。そのカギを握るのが3Dプリンタです。設計図さえ手に入れば、誰でも部材を作れ、組み立てられます。今は専門家の特権である「マニュファクチャー(製造)」が「民主化」するはずです。
現在の日本の建築は、壊して新しく作る「スクラップアンドビルド」方式が主流ですが、エネルギー・環境問題を考えれば、もはやそんな方法を続けている場合ではありません。これからは現存する建造物を再生し、新しい価値を加える改修の技法が進化していくでしょう。欧米でも、古い建築物の改修が進んでいます。
さらに、自然災害の多い日本では特に、もっと自立した建物が必要です。電力や上下水道などのインフラに頼らない「ノマディック・セルフビルディング」の研究も進めています。土地にもインフラにも縛られない、自由で強靭な暮らしを支える家こそ、未来の建築物としてめざすべき姿です。