研究道具箱 カードと研究
研究概要
不格好な木も使い、個性豊かな空間を
どんな技術?
建築材のうち、コンクリートのような人工物は、建築材料として均質に仕上げられ、強度など性能にもバラつきがありません。これに対し木材は、曲がっていたり、枝分かれしていたりと規格から外れたものも多く、材料として使うには選別や加工が必要でした。しかし、昔とは違って新しい技術がそろってきた今、不格好な木材を均一に揃えるのではなく、適材適所、使い方を工夫して無駄なく使い、個性豊かで心地よい空間を生み出せるようになってきました。
3Dスキャナーにより、木の形を正確に把握する方法があります。様々なセンサーを使って、材料としての性能を測ることもできるのです。さらに、そのデータをもとに、木材ごとに性能が違っていても、建てる構造物にどう生かしたらいいのかという解析が徐々にできるようにもなっています。
例えば、枝分かれした木を山から集めてスキャンし、コンピューターに分析させれば、枝分かれをY字型と見立て、「このように組み合わせれば、こんな空間ができますよ」と提案してくれます。この技術が普及すれば、捨てる木が減り、森林資源の有効活用が可能になるでしょう。
将来はどうなる?
研究室で実際に今取り組んでいるのは、災害などの緊急時に、近場から採ってきた木や枝をどう組み合わせたら最適かをコンピューターで探り、その特徴に即した応急的な小屋を作り出そうという試みです。
3Dスキャンはいまやスマホでも可能になっています。将来的には、誰もが自分たちの住環境に興味を持ち、技術の進歩は享受しつつも「自分で作ることも楽しい」と思ってくれるようになることを願っています。手に入れやすい木や枝を使い、自力で建物を作れるようになれば理想的。自宅は東京にあって、地方に行った時には小屋を作って別荘として活用したり、イベントで仮設の建物を作ったりという未来図も想像します。
いま山にある木は戦後植えたもので、50~60年経っています。森林は常に更新していかなければなりませんが、現在は植林が滞っており、このまま将来も豊かな森林資源を維持できるかわかりません。手入れされていない木でもうまく使えることが提案できれば安心して伐って、そこに植林し、時間をかけて森の樹齢バランスを整えていくことができます。木は環境負荷が低い建築材料なので、樹木の成長にかかる30年を家の寿命と考え、建てて壊してを繰り返す暮らしも魅力的ではないでしょうか。