研究道具箱 カードと研究
研究概要
軽く強く美しい構造で、人を守る
どんな技術?
「空間構造」とは、曲面や立体的な形をうまく組み合わせた、軽く、強く、さまざまな動きを生み出せる構造です。使う材料が少ないため、重力や地震の影響を受けにくく、宇宙空間やアリーナ、スタジアム建築などで力を発揮します。また、建設にも解体にも必要なエネルギーが少なくてすみ、環境への負担が小さい点でも優れています。
2017年に、東京大学柏キャンパスに「ホワイトライノⅡ」という名の「張力構造物(テンセグリティ)」を建てました。太い柱同士をじかにつながず、張力を使って一体化する超軽量構造で、テンセグリティ柱の頂点から白い膜がカーブを描いて広がる、美しい建物です。幾度の暴風にも耐え、今も、各部位にかかる張力や圧縮力などの測定と観察が続けられています。
東京ドームの屋根のような「膜構造」も、空間構造の1つです。軽くて柔らかいので、天井に最適。2011年の東日本大震災では、硬くて重い天井が各地で落ち、大変な被害がありました。そこで日本科学未来館と協力し、エントランスホールに「膜天井」を設置しました。これで、もし落ちても、下にいる人が怪我をすることはありません。
空間構造の研究は、理論の単純な積み上げでは進みません。生物が見せる独特な形などに刺激を受けながら、自由な発想を楽しみ、アイデアを頭の中でスケッチし、文献を調べ、前例がなければ模型を作って試行錯誤を繰り返します。言語化しにくいところが、実は醍醐味です。
将来はどうなる?
より軽く、より強く、より役に立ち、より美しい空間構造は、低炭素化社会でも活躍します。既存の建物に空間構造をちょい足しするだけで、新しい価値を吹き込むこともできます。現在の法律では、建物の「耐震」化のために、壁が多くて硬くて重い建築が推奨されています。これからは、地震の力を受け流して建物の揺れを抑える「免震」へと方向転換し、新しい空間構造の発見や工夫が進む社会になることを期待しています。
空間構造はこれから宇宙でも活躍するでしょう。2010年、宇宙航空研究開発機構は、宇宙で自動で開く「宇宙展開構造」を持った小型ソーラー電力セイルの実証機「イカロス」を打ち上げました。セイルは14メートル四方の四角い帆で、支えの骨材がほとんど入っていない、マイクロメートル単位の薄い膜でできていました。重力の影響を受けにくい宇宙だからこそ、地上では強い支えがないと維持できないような巨大な膜構造物が使えるのです。
海の中も空間構造の応用フィールドの1つです。海底油田の石油プラットフォームのように、海に浮かべたり、海底に据え付けたりといった新しい建築ができ、海の中へ生活圏が広がるかもしれません。