研究道具箱 カードと研究

健康

光機能性分子

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研究概要

ISHII Kazuyuki

東京大学 生産技術研究所

石井 和之

ISHII Kazuyuki

専門分野:機能性錯体化学

研究室WEB

がん治療から次世代ディスプレイまで幅広く活躍

どんな技術?

「光機能性分子」とは文字どおり「光をあてると機能を発揮する分子」のこと。特定の光を吸収し、そのエネルギーで活性化し、自分や周りを変えることができます。光を使ったがん治療、バイオイメージング、人工光合成、太陽電池、有機ELディスプレイなどへの応用が可能です。

 

光がん治療は、がん細胞を狙って光をあて、その場で光機能性分子を活性化し、例えば活性酸素を発生させるなどの方法で、がん細胞を攻撃する方法です。正常な細胞への影響が小さく、体への負担も軽い治療法として、注目されています。同様の仕組みで、ウイルスも不活性化できるかもしれません。光機能性分子でコーティングしたナノファイバーで布を作れば、ウイルスをトラップし、光を受けて不活化してくれるマスクができるかもしれません。

 

光エネルギーで活性化される物質として、「フタロシアニン」という分子が有名です。光をあてても壊れにくく、安価なため、研究室から飛び出して、薬や製品として成り立ちやすいと期待されています。最近、この分子と「有機金属錯体」と呼ばれる分子を組み合わせ、体を透過する赤色のレーザー光を当てることで、がんを攻撃する薬を放出させることに成功しました。組み合わせる有機金属錯体の一部を変えれば、放出される薬を変えることもできます。必要な場所に必要なタイミングで薬剤を届ける「ドラッグデリバリー」分子として、がんに限らずさまざまな病気の治療に活用されていくでしょう。

将来はどうなる?

研究室で見つかった個性豊かな化学物質が社会で活躍するまでには、長い道のりがあります。例えば、電気や電子を操るデバイスの材料として使われ、そのデバイスが機械に組み込まれ、建築や土木などに応用されることで、初めて社会に実装されるのです。現状、光機能性分子については、多くの研究が基礎研究段階で止まっています。

 

「フタロシアニン」のような安定で安い分子をうまく改変し、いろいろな目的に使うアプローチも有効ですが、新しい分子群を探す努力も必要です。その候補として、「ソフトクリスタル」という、結晶でありながら液晶のように柔らかい物質群が挙げられます。蒸気をあてると色が変わったり、こすると発光したり、形状を記憶したりと、独特な性質を示します。ポイントは、多くが光機能分子から構成されていること。日本各地の約100人の研究者が、次世代を担う新しい分子を求めて、研究を進めています。

 

ソフトクリスタルの研究が花開けば、光機能性分子の社会実装に立ちはだかる壁も打ち崩せるでしょう。薄くて軽く、柔軟で丸めることもできる「フレキシブルディスプレイ」が街を彩り、光を使った検査や治療、人工光合成や太陽電池がもっと身近になるかもしれません。

他のカードとの相性は?

例えば…

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網を光機能性分子でコーティングし、養殖魚の感染を予防。

道具箱_20191015_表_86_54_center15 道具箱_20191011_裏_86_5415

光機能性分子で作った光触媒と組み合わせ、エネルギーの地産地消。

ソフトクリスタルの紹介映像(2022年度作製)