研究道具箱 カードと研究

持続社会

自己修復プラスチック

道具箱_20200605_表_86_54_center16 道具箱_20200605_裏_86_5416

研究概要

YOSHIE Naoko

東京大学 生産技術研究所

吉江 尚子

YOSHIE Naoko

専門分野:環境高分子材料学

研究室WEB

傷も疲労も自然に治るプラスチック

どんな技術?

自己修復プラスチックとは、切り傷が入ったり千切れたりしても、しばらく置いておくだけで傷が消えるプラスチックのこと。私たちは特に、ゴムを対象に研究を進めています。

 

一般的な天然ゴムは、ひも状の長い分子(ポリマー)が大量に絡まりあってできています。引っ張ると、絡まったポリマーがまっすぐになることで全体が伸びます。しかし引っ張りすぎると、ゴムの内部で分子内や分子間の結合が切れ、元に戻らなくなります。そこで私たちは、分子間の結合を、結合と切断を行き来できる弱い化学結合(「動的共有結合」や、水素結合のような「分子間相互作用」)に置き換えてみました。すると、結合は切れやすくなったものの、切れた結合が復活するようになりました。さらに、結合の復活は、ゴムが完全に切断された場合でも起こり、数分で切り口がつながる現象が観察されました。自己修復ポリマーの誕生です。

 

動的共有結合として、例えばボロン酸エステルを使っています。エステルは、カルボン酸(-COOH)とアルコール(-OH)から水(H2O)が抜けてできる結合ですが、ボロン酸エステルの分子自体が水をはじくため、結合が切れても容易に復活するのです。

将来はどうなる?

現在、材料の「疲労回復」への応用が進んでいます。材料は衝撃を受けると、目に見える傷は生じなくとも内部で化学結合が切れて強度が下がります。この、材料の「疲労」の回復に、自動的に結合が復活するしくみが使えます。実用化されれば、自動車のバンパーなど、定期的に取り換えていた部品が長持ちするようになるでしょう。

 

プラスチックの応用先も広がるはずです。プラスチックが、さらによく伸び、長寿命で、強くなれば、必要な機能をもっと少量で果たすことができます。材料を減らせるだけでなく、超小型の機械(マイクロメカトロニクス)や柔らかい材料を使ったロボット(ソフトロボット)など、プラスチックが活躍する分野がひらけます。

 

実用化の鍵は、合成方法とコストです。ポリエチレンやポリ塩化ビニルなど、身の周りの「汎用プラスチック」は歴史が古く、製造過程が洗練されており、大規模に低コストで作られています。自己修復プラスチックは化学的な構造そのものが異なるため、既存の材料に置き換わる必要があります。工場が備えている汎用プラスチックの大規模な製造過程をなるべくそのまま使い、置き換えの負担を下げる。開発には、ポリマーの理想的な分子構造だけでなく、その合成過程にも配慮することが求められます。

他のカードとの相性は?

例えば…

道具箱_20200605_表_86_54_center7 道具箱_20200605_裏_86_547

緻密な形状をしたゴム製品を作成。応用先はアイデア次第。

道具箱_20191015_表_86_54_center3 道具箱_20191011_裏_86_543

プラスチックと他の素材との組み合わせで、新機能を創出。

道具箱_20200605_表_86_54_center4 道具箱_20200605_裏_86_544

部品の壊れやすい部分を特定し、自己修復プラスチックで衝撃を吸収し、修復。

切れても10秒で復活!驚異の"高分子化合物”の世界(“Path to Science for Girls”プロジェクトの一環として制作)。