研究道具箱 カードと研究

安全・安心

強度解析

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研究概要

UMENO Yoshitaka

東京大学 生産技術研究所

梅野 宜崇

UMENO Yoshitaka

専門分野:ナノ・マイクロ機械物理学

研究室WEB

ナノ・マイクロの世界で壊れ方を探る

どんな技術?

より強く、機能性が高い金属やシリコンなどの産業用材料を設計することは、一流の「ものづくり」に不可欠な要素です。では、最適な材料を設計するには、どうしたら良いのでしょうか。意外かもしれませんが、材料の変形の仕方、壊れ方を明らかにした上で、その知見を活かして強度を高め、より良い機能が生まれるよう設計することに尽きます。目で確認できるミリメートルやセンチメートルのスケールで、材料にどのように亀裂が入り、それが広がり、壊れていくかのプロセスを理解することは、古くから行われてきました。しかし、変形・破壊のメカニズムの全体像を知るためには、目では確認できないナノ・マイクロ領域で、どのように材料が変形・破壊されるかを明らかにする必要があるのです。

 

そこで、シミュレーションを使い、ナノ・マイクロ領域での材料の壊れ方を調べるという、世界でも珍しいアプローチを取っています。シミュレーションに使う数値モデル(予測したい事象を簡略化した数式)は、無償で提供されるデータベースの中から選び、必要に応じて修正していきます。データベースにないものは、独自に「この現象にはこの数式が当てはまるのではないか」と、想像力を働かせてプログラミングを行います。原子の運動を計算することになるので、数十~数百のCPUコアを持つ並列コンピューターを使い、ノンストップで1ヶ月ほどかけてシミュレーションを行います。計算に人工知能(AI)を利用する試みも始まっています。最近は、実際に材料を使い、ナノ・マイクロ領域の壊れ方を調べる実験がなされています。実験の結果とシミュレーションの結果を比べることで、数値モデルを改良し、シミュレーションの精度も上がってきています。

将来はどうなる?

産業界を含む、社会全体の消費や環境についての意識変革が大前提ですが、ナノ・マイクロ領域での破壊の研究が進み、より長持ちで、機能が飛躍的に向上した材料が幅広い分野で生まれるでしょう。「自動車、航空機など乗り物の耐用年数が長くなる」、「大きな電圧や電流を扱うことができるパワー半導体の強度が上がり、それを電源回路に使用するスマートフォンや冷蔵庫がより長持ちする」、「次世代エネルギー源として期待がかかる燃料電池や全固体電池の開発における課題を、破壊のメカニズムの視点から解決する」など、これらはすべて、持続可能な社会を構築する上で重要なことです。

 

また、シミュレーション手法が、金属などの硬い材料だけではなく、プラスチックやゴムなど柔らかい材料の壊れ方の解明にも役立つと分かってきました。より強固なプラスチックや、パンクしにくいタイヤが誕生し、安易な買い替えをよしとする「大量消費社会」に変革を促すことになってほしいと願っています。

他のカードとの相性は?

例えば…

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分子の並びを工夫し、亀裂が入りにくく、修復しやすいプラスチックへ

道具箱_20200605_表_86_54_center 道具箱_20200605_裏_86_54

表面加工で、亀裂が入りにくく、広がりにくい材料へ

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ひび割れの原因になる水が入り込みにくいコンクリートへ

セラミックスの変形と破壊のシミュレーション。結晶の中を、原子レベルの変形が伝わっていく様子。