研究道具箱 カードと研究

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複合原子層

道具箱_20200605_表_86_54_center2 道具箱_20200605_裏_86_542

研究概要

MACHIDA Tomoki

東京大学 生産技術研究所

町田 友樹

MACHIDA Tomoki

専門分野:低次元量子輸送現象

研究室WEB

1+1から無限大の可能性を引き出す

どんな技術?

ファンデルワールス複合原子層とは、1種類あるいは数種類の原子が規則正しく平面的に格子を組んだ「原子層(二次元物質)」を、層状に重ねたものです。原子層と原子層の間に結合はありませんが、ファンデルワールス力という、原子と原子が引き合う力がゆるく働いています。

 

複合原子層の面白味は、重ねることで、個々の原子層の持つ機能を単純に足し合わせただけではない、新しい機能が生まれること、そして、どの原子層をどの順番でどの角度で重ねるかによって、自然界にない物質を無限に生み出せることにあります。

 

例えば、炭素原子が六角形のハチの巣構造を作り、それが平面上に広がった「グラフェン」という原子層を、1.1度傾けて重ねます。すると、単体では示さなかった超伝導を示すようになります。低温で電気抵抗がなくなるのです。

 

手軽に高品質で作れる原子層は、数十種類あります。実際に重ねてみるまでは、どのような機能が生まれるかは分かりません。宝探しのような研究です。私は特に、グラフェンと遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の原子層に注目しています。グラフェンは、電子が、ディラックフェルミオンと呼ばれる特殊な粒子として振舞う珍しい材料です。TMDは、単原子層にすると発光できるという面白い性質を示します。これらを重ねては、0.01ケルビンといった極低温での電気抵抗を調べ、時には超伝導体や強磁性体となる原子層とも組み合わせ、自然には観察されたことのない現象を探しています。

将来はどうなる?

新しい複合原子層が次々生み出され、今ある材料の性能の限界を突破し、研究所や工場といった「ものづくり」の現場にレーザーやセンサーなどのデバイスとして組み込まれるでしょう。そして、そこで作られた製品が私たちの暮らしに入ってくるでしょう。例えば、光を当てると電圧が生まれる「光起電力」。現状の材料には発電効率の限界が見えていますが、新しい材料が生まれれば、効率が劇的に上がり、新しいしくみの太陽電池が世を席巻するかもしれません。

 

大事なのは、膨大な複合原子層の組み合わせのどこから着手するか。そこで、マテリアル・インフォマティックス+ロボティクスを活用し、複合原子層探しの効率化+自動化も進めています。ロボットが多様な組み合わせで原子層を重ね、複合原子層の性質を測り、測定データを蓄積。これをもとに、目的の性質に適切な組み合わせを人工知能が提案。提案をもとに再びロボットが候補原子層を作り、性質を測定。これを繰り返し、特定の性質を示す複合原子層を、人の手を介さずに作り出すシステムが、将来生まれるかもしれません。

他のカードとの相性は?

例えば…

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求める性質を持った化合物を設計する人工知能を、複合原子層の探索に応用。

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光を閉じ込める結晶の上に、複合原子層を貼付。新しい種類のレーザーが誕生するかも。

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新しい複合原子層を材料に使うことで、振動による発電量の限界を突破。

ファンデルワールス力でいろいろな種類の原子層を自由自在に積み重ね、これまでにない特性を持つ材料を設計することができます。