研究道具箱 カードと研究

持続社会

浮沈式いけす

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研究概要

KITAZAWA Daisuke

東京大学 生産技術研究所

北澤 大輔

KITAZAWA Daisuke

専門分野:海洋生態系工学

研究室WEB

魚が育ちやすい深さに浮き沈みするいけす

どんな技術?

いけすとは、網などで作った構造物を海に浮かべ、その中で魚を養殖する施設のこと。浮力を変化させ、海の中を自由に上下できるようにしたものが、「浮沈式いけす」です。

 

いけすは、もともと日本発の技術ですが、今ではノルウェーやチリなど世界各国に広まっています。頑丈な構造物ではないため、リアス式海岸やフィヨルド地形など穏やかな海域でしか使えず、台風などで荒波に襲われると壊れやすいことが弱点でした。

 

そこで開発されたのが、浮沈式いけすです。海面近くでは波の影響をもろに受けますが、海中に沈めば沈むほど影響は小さくなります。そのため台風が来た時は、いけすを沈めて被害を軽減しようと考えたのです。最初は防災目的だったので、浮上するか、10メートルほど沈めるかの二択でしたが、2012年くらいから、浮力を調節できるブイを使ってどの深さでも止められる「可変深度型いけす」を開発しました。これにより、いけすを魚の生育に適した温度や酸素濃度の位置に移動することができ、新たな用途が生まれました。

 

例えば、ギンザケは約21℃以下で育てる必要があります。東北沿岸では1011月くらいに150180グラムの幼魚をいけすに入れて、翌年6、7月に1.5~2キログラムに成長をした成魚を出荷していますが、可変深度型いけすを使えば、気温が上がっても水温の低い深度にいけすを沈めることで今より長期間養殖することができ、もっと大きく育ててから出荷することができます。

将来はどうなる?

健康志向の高まりから、世界的に食用魚の需要は増え、各国で養殖が盛んになりつつあります。現在は、いけすに適した沿岸の静穏な海域に限られているため、高密度の養殖による環境汚染や魚の健康被害などの弊害が出始めていますが、浮沈式いけすが実用化されれば、波の高い沖合へと養殖場がひろがっていくはずです。

 

しかし、いけすが沖合に設置されると、人間によるアクセスは難しくなります。波がおおよそ1.5メートルを超えると作業用の小さな船は近付けません。これからは、給餌や網の掃除、死んだ魚の除去といった作業を、IoTAIを使って自動化する必要が出てきます。

 

養殖を支えるには、環境面での持続可能性を考慮することも必要です。たくさんの魚を養殖しても、その排泄物が周りの海を汚し、魚自身が死んでしまったら元も子もありません。排泄物を他の生物の育成に利用するなど、循環するミニ生態系を作る「複合養殖」という考え方が、重要性を増していくでしょう。

 

また、餌の確保も非常に重大な問題です。たくさんの食用魚を養殖するために、餌のオキアミやカタクチイワシなどの小魚が大量に消費されます。海の生態系のバランス維持や、養殖産業の飛躍的拡大のために、植物性たんぱく質や昆虫などを利用した人工飼料の開発が、待ち望まれています。

 

さらに、これまでは幼魚を捕獲していけすで育ててきましたが、親魚から卵を採って人工ふ化させ、その幼魚を親魚まで育てる「完全養殖」も必要な技術です。

他のカードとの相性は?

例えば…

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川などの栄養塩の濃度から、赤潮の発生位置を予測し、安全な位置にいけすを移動。

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病原菌を探知し、安全な位置にいけすを移動。

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生物が付着しにくい網を作り、掃除不要ないけすへ。

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得られた電力を、給餌や水質保全に利用。

浮沈式いけすによるギンザケ実証養殖