研究道具箱 カードと研究

持続社会

光触媒

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研究概要

TATSUMA Tetsu

東京大学 生産技術研究所

立間 徹

TATSUMA Tetsu

専門分野:高機能電気化学デバイス

研究室WEB

光でエネルギーや材料を作る

どんな技術?

光触媒とは、光のエネルギーを使うことで、通常は起こらない、あるいは速度が遅い化学反応を起こしやすくする材料です。すでに、汚れや臭いの分解や、抗菌・抗ウィルスの機能を持つ光触媒が実用化されています。建物の外壁を光触媒でコーティングすれば、光のエネルギーを吸収して壁についた汚れを落とすことができ、内壁に用いればシックハウス症候群を予防することもできます。

 

あらゆる物質は、プラスとマイナスの電荷をいくつも持っています。光触媒は、光を吸収し、そのエネルギーによって、本来は引き合うプラスとマイナスの電荷を引き離します。引き離した電荷を他の物質に与えることで、その物質を変化させる、つまり化学反応させることができます。たとえば、水分子(H2O)にプラスの電荷を与えれば酸素(O2)になり、マイナスの電荷を与えれば水素(H2)になります。水素は、燃料電池自動車などの燃料としても期待される、次世代エネルギーです。

 

光触媒の材料の中でも、酸化チタンは安価で安定しており、すでに実用化されています。しかし、紫外光しか吸収しません。紫外光は、太陽光に占める割合が数パーセントしかないため、酸化チタンは有害物質の分解など、限られた用途にしか使えないのです。そこで、可視光や近赤外光のエネルギーも活用する工夫が検討されています。

 

例えば、金や銀のナノ粒子を用いる方法です。金属は通常、光を反射しますが、数ナノメートルから数百ナノメートルのサイズに加工すると、可視光や近赤外光を効率よく吸収します。こうして吸収した光エネルギーにより、金属ナノ粒子のプラスとマイナスの電荷を分離させるしくみを作ることができました。

将来はどうなる?

これからの光触媒は、より広い用途に使えるようになるでしょう。例えば、可視光を利用した水素の生産が行われるようになるかもしれません。同じ強さの光のもとでも、より多くの水素を生成する光触媒をめざし、研究が進んでいます。また、二酸化炭素からアルコールなどを合成し、燃料として使う技術も期待されています。エネルギー・環境問題の解決に、貢献できるかもしれません。

 

光触媒の多くは、反応する相手を選ぶことができません。有害なものだけでなく有益なものも分解してしまう場合があります。反応させたい物質だけを選べるように、助触媒(光触媒の反応を補助する材料)に工夫を加える研究も進んでいます。今後、目的に応じて機能を特化した光触媒が、バラエティ豊かに生まれてくるかもしれません。

他のカードとの相性は?

例えば…

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野菜などの熟成を促すエチレンを光触媒で分解し、長期間保存。

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光触媒で、太陽光エネルギーを水素などの化学エネルギーに変換して運搬・貯蔵。

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フォトニック結晶が持つ、光を閉じ込める効果により、光触媒の効率を向上。

白金助触媒を組み合わせた酸化チタン光触媒の粉末を、エタノールを含む水溶液に分散させ、キセノンランプ(太陽光に近いスペクトルを持つ)で照射した様子。酸化チタンが紫外線によって励起され、その作用で水が水素に還元されて、気泡が生じている。